大学保健管理センターで多くの学生のメンタルケアや治療にあたってきた精神科医・野田哲朗さんはそう警鐘を鳴らす。 2020年から2021年にかけて学生たちのうつ・不安の強さの変化を調査し、状況が悪化しつつあることを明らかにした。 感染対策のため、外出自粛の呼びかけをはじめ、この数年さまざまな我慢を強いられている私たち。若者に限らず「しんどい」人は多いかもしれない。 コロナ禍という特殊な状況はどんな影響を与えているのか? 野田さんに聞いた。 確実にありますね。しかも、長引くコロナ禍でじわじわと悪化している様子も見られて心配です。 2020年の5月、7月、11月と、翌2021年7月の4回にわたって、学生たちに対して、うつ不安スクリーニングテスト(K6)を受けてもらった結果がこちらです。 ――16%はかなり多く感じます。6人に1人程度ですね。 去年の7月の段階ですからね。今はもっと悪くなっている可能性もあると思います。 心配なのは、自分の心が不安定であることに気づいていない人も多いところです。 (うつや不安の)点数の高い学生宛に「しんどい人は相談してください」とメールすると、SOSを出してくれる人がそれなりにいます。 面接をして、「これはかなりヤバいな」とすぐに医療につなげたケースもありました。 でも、いざ本人に「かなりまずいよ、今まで大変だったね」と言うと「え? 私そんなにひどいですか?」なんて言って。 ――なかなか気づかないものなんですね。悪化しやすい人の傾向はありますか? 真面目な子ほど「全部ちゃんとやらなきゃ」と思ってしまっていっぱいいっぱいになっている気がしますね。 課題の量も増えて、授業も録画で何度も見返せるようになって、勉強と生活の境目がなくなってしまうというか。ずっと家にいるのもあるでしょうね。 キャンパスに通っていれば、友達や先生が「最近、授業に来てないな」「様子が変だな」と気づいてカウンセリングにつなげてくれることもあるのですが……。 ――たしかに、オンラインだとそのあたりのフォローは難しそうです。 家から出ずに授業を受けて、人と話さなくなって、なかなか実家に帰れず家族とのふれあいも減って……。 コロナ禍の生活に慣れすぎて多少の不調も「まぁこんなもんかな」「みんなそうだしな」と過小評価している人も多いのです。
もともと繊細な人がさらにしんどく
――先ほどの調査ですと、「問題なし」は5割に届かない程度なんですね。半数以上がうつっぽさを感じているというのは多いのですか? 通常は「問題なし」が6割以上になるので、やはり全体的にうつ不安感は高まっているとは思います。 とはいえ、そもそも20代前半は、メンタルの問題が顕在化することも多い年頃ですからね。しんどい人が一定数いるのは当たり前なのです。 コロナによって生活スタイルが変わり、もともと繊細な人、しんどい人がさらに追い込まれてしんどくなっている、という状況なのかなと推測しています。 (2021年度の)1年生はまだ入学したばかりですから、結構調子がいいんです。4年生はしんどい傾向。これは毎年のことですね。就職活動のストレスがやはり強い。 問題は2年生です。彼らは2020年に入学した学年で、入学早々コロナで大学は閉鎖になり、オンラインで授業を受けてきました。 サークルやクラスでの活動もほとんどなく、いわゆる「学生生活」的なものがなかった世代だと思います。 彼らのストレスが、2021年7月の調査でかなり強まっていました。 少しずつキャンパスに人が戻ってきて、対面授業も増えてきた時期ですが、これはこれでまた強いストレスになったのだと推測されます。これまでオンラインでどうにかこうにかやってきたのに、また生活を変えるのは大変ですよね。 ――大学側からしたら「元に戻った」でも、入学時点からそれでやってきている身からしたら。 友達を作るとか教室の場所を覚えるとか、普通は新入生の時に終わっているそういう負担もありますしね。 オンラインの方が楽だった、性格的に向いていたという人もいるでしょうしね。 1984年からアルコール専門病院で勤務し、1998年からは大阪府に入職。精神保健福祉課長などを歴任したのち、2009年に大阪府精神医療センター医務局長に就任した。 発達障害の支援、アルコール健康障害予防、自殺予防、災害時の心のケア、薬物ドラッグ問題、ストレスマネージメントなどをテーマに研究を続けている。2020年以降は、大学生が「Withコロナ」時代を柔軟に生きるためのストレスモデル構築の横断的研究に取り組む。