外国にルーツを持つ人を対象に、警察による職務質問について尋ねるアンケートの結果を9月9日、主宰した弁護士らが発表した。 アンケートは、特に不審な点がないにも関わらず、肌の色など外見や人種・民族などを理由に職務質問する「レイシャルプロファイリング」の実態を把握するために行われた。 回答内容から、人種など見た目や国籍で態度を変えるといった、職務質問の差別的な実態が浮き彫りとなった。 レイシャルプロファイリングとは、警察などの法執行機関が、人種や肌の色、民族、宗教、言語などを根拠に職質をしたり、捜査の対象にしたりすることをいう。 欧米などでは、アフリカ系や中東系、中南米系の人々などに対するレイシャルプロファイリングが長年問題となってきた。 国連人種差別撤廃委員会は2020年12月、レイシャルプロファイリングを防止するための勧告を出し、「国際人権法違反」と指摘している。 そして、それは日本でも起きている問題だ。 日本の警察の、外国人に対する職務質問については、2021年12月に駐日米国大使館が警告する内容のツイートを投稿。 「日本で外国人に対し、レイシャルプロファイリングが疑われる職務質問があり、所持品検査を受けたり拘束されたりした人もいる」とし、もし米国人が拘束された場合は、すぐ米大使館への連絡を警察に求めることを呼びかけた。 日本政府はこれまで、レイシャルプロファイリングについての調査をしていない。 今回、実態を把握するために、東京弁護士会の「外国人の権利に関する委員会」の弁護士らが主体となり、2022年1月11日〜2月28日の約1カ月間、アンケート調査を行った。

「外国人を一括りにして『犯罪者』『犯罪者予備軍』として扱っている」

調査の有効回答数2094で、回答者のうち、62.9%が過去5年内に職質を受けたと答えていて、職質を受けた人の中で70.3%が警察官の職質中の態度などで「気分を悪くした」と答えていた。 調査を行った弁護士らは都内で9月9日に会見を開き、回答から見えてくる日本でのレイシャルプロファイリングの実態について説明した。 宮下萌弁護士は調査結果を受け、「調査結果は氷山の一角で、もっとこのようなことが起きている」とした上で、以下のように話した。 「いわゆる見た目から外国ルーツだとわかる人たちが、職質を受ける割合が高かった。外国人を一括りにして『治安』の対象とし『犯罪者』『犯罪者予備軍』として扱っているということがわかりました」 「外国人だとわかった途端にタメ口になったり、逆に日本人だと分かったら『失礼しました』と急に丁寧な態度になったりするという報告も多く寄せられました」 回答者の国籍の内訳は、アメリカが32.0%と最も多く、日本が16.0%、イギリスが9.6%、カナダが4.3%などで、他にもアジアやヨーロッパ諸国の出身者がいた。 職質の経験がある人の中で多かった民族的ルーツは、「中南米」が83.5%、「アフリカ」が82.9%、「中東」が75.6%と高い数値だった。 職質中の警察官の態度について「丁寧ではなかった」「どちらかといえば丁寧ではなかった」と回答した人が多かったのは、「中東」(53.3%)、「ミックスルーツ」(50.0%)、「オセアニア」(46.5%)などだった。 調査はオンライン上のフォームで日本語、英語、ふりがなつきの日本語、ベトナム語、フランス語、ドイツ語版が用意された。

「いきなりズボンを脱がされ下のものを見られた」「外国人とわかった途端、態度が急変」

調査では自由記述欄も設けられ、回答者から多くの経験談が寄せられた。 《見た目だけで薬などを持っているのではと疑われた。終始乱暴で失礼な態度で、いきなりズボンを脱がされ、下のものを見られた。侮辱的だし差別的。とても心が傷ついた。何も持っていないのを確認したら、謝りもせず、脱がせたまま立ち去っていった。本当に失礼だし、警察官としてありえない》 《外国人であることがわかった途端、警察官の態度が急変しタメ口で職務質問が行われた。その経験がトラウマになり今は帰国を考えている》 《人種に基づいてプロファイリングされ、犯罪者扱いされたと感じています》 《仕事をしていることはわかるが、外国人だからと路上や空港内で大勢の人々の前で犯人のように調査されるのは差別的だと感じています》 《日本の警察に言われたことでとても腹を立てていて、尚且つとても悲しい思いをしました。日本で生まれ育ちましたが『お前ら外国人は国に帰れや、外国人に実験などない!国に帰れ!家族そろって国に帰れ!』と怒鳴りつけられました》(原文ママ。「実験」は「人権」とみられる) このような回答を受け、宮下弁護士は「本当に多くの声が寄せられた」「今までどこにもいえる場所がなかったのだと思う」と話した。 また、警察側での職質の実態の検証と改善に向けては、「客観的に職質での人種差別について検証できるように、(職質の内容を)記録をするなどの仕組みを作るべき」と指摘した。 東京弁護士会では2007年に「外国人に対する職務質問アンケート」を実施しているが小規模なもので、今回のように2千人を超える回答が寄せられた大規模な実態調査は初めてとみられている。 詳細な調査結果は、東京弁護士会のウェブサイトに掲載されている。 この条文によると、警察官は、 ・異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯した者、もしくは犯罪を犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者 ・既に行われた犯罪について、もしくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者 これらの「不審事由」の要件を満たす相手に対し、質問することができる。 この職務質問そのものは、日本人、外国人を問わず行われている。 しかし近年は、「特に『不審事由』がないにもかかわらず、警察官から職務質問を受けた」という声が、外国にルーツを持つ人々から弁護士らに多数、寄せられているという。 見た目が「外国人風」だったり、外国語を話しているといった理由だけで、「不審事由」がないにもかかわらず警察官が職務質問をしているケースがあるとみられ、「それはレイシャルプロファイリングにあたる」として、実態の把握をする調査を実施した。 有園洋一弁護士は、「調査は職務質問自体を否定するものではありません。職務質問自体は犯罪の抑制に有効」とした上で、「レイシャルプロファイリングは明確な差別です」「こうした声が出ているということを、警察にはしっかりと受け止めてほしいと思います」と話した。

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