医師の処方箋なしでも、適切に薬を扱えるのか。万が一の時には、当事者の人生を大きく左右するかもしれないことへの「覚悟」はあるのかーー。 こうした指摘を、検討会で委員を務める日本薬剤師会の岩月進・常務理事はどう受け止め、市販薬化をめぐる様々な課題についてどのように考えているのか。 これまでの検討会での議論について聞いた。 日本薬剤師会としての立場を改めて申し上げるなら、やはり医薬品へのアクセスは、なるべくハードルを低くして、なくしていった方がいいというのが原則だと考えています。 これは緊急避妊薬に限らずで、スイッチOTC化に関して議論する際、我々は常にその原則を念頭に置いて、検討会に臨んでいるわけです。 緊急避妊薬がちょっと特別なのは、社会の要請はもちろんのこと、内閣府が「第5次男女共同参画基本計画」で、薬剤師による緊急避妊薬の提供について言及するなど、政治が問題視をして取り上げているところが、これまでとは大きく違うところだと思います。 政治が取り上げるということは、やはりアクセスに問題があり、それで困っている人がいるということ。 性行為という、男性も女性も関わることで、女性だけが一方的に不利益を負わなければならない状況は、なるべく是正しなければならないという、大きな社会的な命題があるわけです。 そうなると、やはりもっとアクセス機会を増やしていかないと、不平等は解消できないよね、ということが言えると思います。 そういった議論を正面からしなきゃいけないんですが、これまでの検討会では、(OTC化しては)ダメな理由ばかりが挙げられてきたと思います。 そこで挙げられている懸念も、本当に懸念なのか?ということで、議論ができていないんだろうと私は認識しています。 ーーそれはどういう意味でしょうか? 例えば、日本産婦人科医会の先生が、性教育に関するリテラシーが低いことを課題として指摘されていましたが、じゃあそれって誰が担うものなの?という話だと思うんですよね。 もちろん学校教育における問題もありますが、そういう職能団体である産婦人科医会の先生方が担うものでもあるのでは?と、思うんですよ。これは、同じように自分たちに返ってくることでもあります。 他にも例えば、諸外国を調査して、調査した国々ではトラブルなくやってますよと言ったら、「日本と外国は制度もリテラシーも違うんだ」と仰るわけです。 じゃあ何のために調査したの?ということになるじゃないですか。だから、おそらく「懸念」ではないんですよね。 国によって当然、保険制度や社会状況、文化はそれぞれ違います。緊急避妊薬を使うためには、医者にかからないとダメという国ももちろんあります。 でも調査した結果、OTC化したことで性犯罪が蔓延ったというような国はどこにもなく、医者にかからなくてもうまくやってますよという国もあった。それはつまり、我々も同じようにやれる可能性は絶対にあるということだと思います。 悪いことが起きないように、いいことは真似しましょうと、議論するための調査だったと僕は認識しています。 薬剤師に任せておいて大丈夫かということは、この検討会で毎回指摘されることで、僕はそれを一番不満に感じています。 僕たちは今も、処方箋調剤で医療用医薬品を扱っています。医療用の薬が一般用になっても、医薬品自体の成分は変わりません。 全く同じ薬なのに、お医者さんから来た処方箋のときは1から10まで全部説明して、患者さんが自ら選択して使う場合には1〜5までしか説明しない、なんてことはあり得ません。 違うのは、その薬を使うことを誰が決めたのか、医師なのか、患者さん自身なのかということです。 うちの薬局には、緊急避妊薬の処方箋が来たことはないですが、初めての薬は勉強してからでないと調剤できないかといったら、そんなことはありません。そのために免許や資格を持っているわけですから。 これに関しては指摘を受けて、必ず在庫を置くよう義務を課しました。研修を受けて、対応可能ですと手を挙げたのに、在庫を置いていないのはないだろうと。 ただ、今の医薬分業制度では「不良在庫」が発生し得る状況です。 大きな医療機関の横にある、いわゆる「門前薬局」がどうしてビジネスモデルとして成り立つかというと、決まった患者さん、決まった処方箋しか来ないので、色々な薬を置いておく必要がなく、一番楽に経営が成り立つわけです。 それが、色々なところから患者さんがお見えになる場合は、在庫がめちゃくちゃ増えるんですよ。一つのお薬で、一人しか来なくて、一回お見えになって、最悪亡くなってしまったりとか、他の薬局に行かれちゃったりとかすると、丸々在庫が残るわけです。 緊急避妊薬もいつ、どこで、どれくらい必要になるか、予測がつきません。 これが抗がん剤のように非常に高額な薬だったら、さすがに在庫を義務化するのは難しいですが、緊急避妊薬の価格帯であれば、そこまでの経営へのインパクトはないと思われます。 だからこそ、私たちも必ず置いてくださいとお願いしているわけです。 ーーでは、薬剤師会がOTC化に前向きなのは、薬局が儲かるからではない…ということでしょうか? もちろん間口が広がれば、多少はあるかもしれませんが、緊急避妊薬があるからといって、一気に患者さんが殺到するなんてことはあまり考えられませんし、もしそんなことが起きたら、それこそ問題です。 僕らの利益に結びつくことはなく、むしろ今言った在庫確保の問題などから、失う分の方が大きいだろうと思います。 まさに社会的な使命、医薬品を供給するのは僕らの仕事だということでやっているんですね。 支援センターの医師からは、OTC化することで、性暴力被害者が緊急避妊薬だけ飲んで安心し、必要な支援から遠ざかってしまうのではないかといった懸念が示されました。 今は我々もワンストップ支援センターと連携するよう呼びかけているので、オンライン診療の研修でセンターの方を呼んで、講義してもらったりしている地域も多いと思います。 確かに薬を手に入れたから、もう被害はなかったことにしようと考える人も、いないわけではないと思います。 でもそこで気付いて、改めて病院や支援センターに相談に行こうと考えることも十分あると思います。 セーフティーネットの目を細かくして、なるべく救える人を増やしていこうということであれば、薬剤師がその目を詰めていくことができるはずです。 まずは、対面診療などに伴う緊急避妊薬の処方で薬剤師が今やっていることを、当面は踏襲すべきだと思います。 ーーオンライン診療の指針では、薬剤師の前で薬を飲むこととされていますが、面前内服は当事者の人権やプライバシーを侵害し、心理的負担の増加にも繋がるという懸念が示されています。 その指摘は、私も理解ができます。最終的には薬を買って、帰って家で飲めばいいよねというのが理想だとは思います。 しかし、その理想に近づくためには、やはり段階を踏むべきだと思います。 いきなり自動販売機で売ったり、アメリカみたいにガソリンスタンドでも買えるようにする…ということでもなく、薬剤師という専門家の関与のもと、薬局で買えるようにするためにはまず何が必要かを議論する。 薬物の適正使用や複数の薬局で薬を買って回る「買いまわり」を防ぐという観点からも、まずは面前内服の形から始めるべきではないかと思います。 そうやって新しい経験を重ねて、社会的にそういった方法が定着していけば、必要ないねということになるかもしれない。やはりステップバイステップで進めていくべきだと思います。

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